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画期的な暗号が発見!?

学生時代の指導教官が暗号解読の専門家だったので、どうも「解読不能は数学的に証明済み」、RSAを超える新暗号方式とはみたいな記事は気になります。以下、内容を真面目に読んでみます。以下、ほとんどの人にはつまらないと思います。


開発者へのインタビューの出だしは、かなり衝撃的。

「われわれの開発した暗号方式は、数学的に解読が不可能であると証明されています」。

ええ〜! マジで?
これは、ホラ吹いているか、量子暗号なみに画期的な概念を発表したか、どちらかでしょう。

鍵空間は無限大ですから、鍵を推定できる確率はゼロです

前提条件と結論が結びつきませんよ。
素数だって無限個あるんだから、RSA暗号の鍵空間も無限大です。ただし、「鍵自体」は有限の値なので、いつかは解読できてしまいます。(天文学的時間がかかるかもしれないけど)
「鍵空間」が「鍵空間の次元」だったとしても、「鍵を推定できる確率はゼロ」だなんて簡単に証明できないのでは?

CAB方式は、適当な初期値を取ることで任意の長さのランダムなバイナリ列を生成するアルゴリズムや、公開鍵分配アルゴリズムからなる。CAB方式で使われる公開鍵配分アルゴリズムは、Diffie-Hellmanやそれらの変形を包含する一般化とは異なる、はるかに複雑性の高いものだという。

ということは、CAB方式はまったく新しいものではなく、良く知られた既存の技術を複雑に組み合わせたものなのですね。既存の技術の解読法が分かってしまえば、CAB自体も解読できる可能性があるのでは?

ほかの公開鍵暗号方式はCAB方式の特殊な場合なのです

良く知られた既存の技術を複雑に組み合わせたものであれば、↑のような発言も「当たり前」なので、何も凄くないと思うのですが…。誇大すぎませんか? 例えば、「私が考えた××自由加群は、すべての整数を含んでいます」と言ったところで、「そりゃそうでしょ」という感じ。

また鍵だけでなく、暗号に使う関数自体も毎回異なるため、攻撃者が任意のテキストを入力してそのアウトプットから関数やパラメータを推定する攻撃、いわゆるクリアテキストアタックもCAB方式暗号では無効だという。

「暗号に使う関数自体も毎回異なる」がミソで、これでかなり解読が難しくなりそうですね。ただ、「無効」の理由にはならないでは? 「無効」でなく、「非常に難しい」とかだと合っているかもしれませんが。
あと、毎回関数を変えたとしても、1回分を固定して考えれば鍵や関数はfixできるので、1回分の解読コストは既存の暗号くらいに落ち込む可能性がありそうですね。無線LANで利用されているTKIPだって鍵を変えるんだし、そこまで画期的ではないと思うのですが。

安全性についても、理論的裏付けがあるとはいえ今後は専門家による検証が欠かせない。

暗号の世界では「専門家による検証」なくして安全だなんて言えません。
情報が公になっていない暗号方式をここまでヨイショして持ち上げること自体が、通常あり得ないですね。企業広告だとしても、ないですね。よく雑誌に載っている「幸運を呼ぶクリスタル」の通販くらい、ないですね。


蛇足ですが、記事の冒頭に「すべての暗号はいずれ破られる」ことの例に以下のような表現がありますが、例としては不適切かと思います。

鳴り物入りでリリースされたDVDのコンテンツ暗号技術「CSS」(Content Scramble System)が、リリースからわずか数年で10代のノルウェー人ハッカーに破られたことは

「すべての暗号はいずれ破られる」というのは「暗号の理論的仕組み」について言及している表現だと思います。ですが、CSSが破られた原因は、暗号化を忘れた人がいたことで決壊したのだから、「単に自滅しただけ」です。
例としては、MD5とSHAの解読とかの方が適切なのでは?


今回の「事件」は、以下のような構図に見えます。

  1. CAB方式という、暗号の常識に反して「暗号の中身は不明だが安全」な暗号がある(この段階で暗号としての信頼性不明)
  2. これを考えた人がベンチャー企業を立ち上げた
  3. 信頼性不明な商品を、革命的な商品と謳った広告が出た

鍵だけでなく、関数を毎回変えるところは頑張っているのかもしれませんが、現状では本当に信頼性不明ですね。もしかすると、信頼性高いのかもしれないし、低いのかもしれない。ただ、記事の内容からは、タイトルの「解読不能は数学的に証明済み」には辿り着けませんね。

動く物は作っているそうですし、結局、ビジネス的に成功してしまえば勝ちなんでしょうから、こういう方法も「ビジネス的には」アリなのかもしれません。タイトルに期待して、真面目に記事読んでも時間の無駄でしたが…